SBIホールディングスの子会社が、東京国税局の調査を受け、移転価格税制により中国の関連会社に支払った人件費の金額が一般的な取引より高く、日本での納税額が少ないとして追徴課税を受けた(日経新聞 令和7.3.18)。

 移転価格税制における追徴課税を受けると、特徴的なのは、取引先である外国関連連会社との間で、国際的な二重課税が起こってしまうことです。相互協議の申し立てにより、きちっと当局間で二重課税を調整してくれればいいですが、国によっては交渉がうまくいかないケースも少なからずあるようです。そうなると、残る手段としては。再調査や審査請求などの不服申し立てによることになりますが、これには多大な時間と、会計士などの専門家への報酬など膨大な費用がかかることになるため、不服申し立てを断念し、二重課税を容認するという会社も少なくないようです。

 移転価格税制は、海外の関連会社との取引の価格設定にまで税務当局が侵入してくるので、企業にとっては「おおきなお世話」という印象ですが、客観的に見れば、海外への日本の富の流出を防止する面と、税制を整備することで外国当局の課税の乱用を防止する面もあるような気がします。

 1975年ころの日米の自動車貿易摩擦に端を発して、米国の税務当局(IRS)は、昭和60年(1985年)ころまでに日本の自動車メーカーの米国子会社に対し、移転価格税制に基づいて膨大な追徴課税を行いました。当時、移転価格税制を持たない日本にとっては、一方的な課税となりました。日本政府は制度としてはないものの、今でいう「相互協議」を米国政府と行って、自動車メーカーの子会社との二重課税とならないよう「対応的調整」を行ったようですが、制度のない日本としては大幅な譲歩を迫られたことは想像に難くありません。昭和63年には、ついに日本も移転価格税制を導入することになりました。

 現在においては、新興国を含め、多くの国に移転税制は広まっています。日本企業としても、外国の関連会社との取引価額等の設定に当たっては、移転価格税制を見据えながら、慎重に行うことが必要になっています。場合によっては、税務当局の取引価額の事前確認の制度(APA)の利用を検討してみることも、リスク回避という面で、必要かもしれません。